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DESIGN
インハウスデザイナーの役割と考え方
2023
.10.03
近年、ビジネスにおけるデザインへの関心の高まりとともに、社内にインハウスデザイナーを雇用する企業も増えてきました。デザイナーを採用することで社内のマーケティングツールや広報ツールを内製できるようになるのはもちろん、アプリやホームページなど、自社のサービスの質を向上させることもできます。しかし、一口にインハウスデザイナーとは言っても印刷会社に所属するDTPオペレーターのように指示に従って編集を行うデザイナーから、デザインするだけでなく広報担当のように外部のデザイナーが作ったデザインをディレクションするデザイナー、プロジェクトの根幹から関わりサービスのデザインや自社のブランディングに関わるデザイナーなど、役割は企業によって変わります。大多数の企業としては、デザイナーという職種を採用すること自体経験がなく、どこまでの仕事を割り振ればいいのかわからないことも多いと思います。採用されるデザイナーとしても、インハウスデザイナーとしてどこまでの業務をこなせばいいのかが不透明だと、ポテンシャルを発揮することはできません。IT系企業であればデザイナーという職種は比較的身近なものですが、例えばこれがメーカーや金融関係、学校などの場合、他のスタッフは突然現れた「デザイナー」に何をしてもらえばいいかも分からない、というケースに陥ってしまうことも考えられます。今回は、デザイナーを採用しようか悩んでいる企業に向けてのインハウスデザイナーの役割と、インハウスデザイナーとして働こうと考えているデザイナーの方へ向けてインハウスデザイナーとして働くポイントをご紹介します。
【目次】
1. 企業が知っておくべきインハウスデザイナーの役割
a. 広報ツールや社内資料のデザイン
b. デザインのディレクション
c. デザイナーの知見を活かした問題解決
2. デザイナーがインハウスで働く上でのポイント
a. 働く環境を吟味する
b. 自身のプレゼンスを高める努力をする
c. ボトルネックを見極める
3.今回のまとめ
企業が知っておくべきインハウスデザイナーの役割
冒頭でも述べたように、インハウスデザイナーと一口に言っても、その性質は所属する企業によって異なり、業務内容も多岐に渡ります。ここでは、インハウスデザイナーが行う業務の一例をご紹介します。
広報ツールや社内資料のデザイン
所属する企業によらず、インハウスデザイナーに一番求められる業務は広報ツールや社内資料など社内ツールのデザインです。会社が大規模になればなるほどコーポレートサイトなどのホームページや会社案内などのオフィシャルなマーケティングツールはインハウスデザイナーだけの手には余る仕事にはなってきますが、社内資料のデザインを整えて研修をスムーズに進行することや、客先で使う提案資料をクライアントに合わせ内容を最適化させることなどは、社内でフットワーク軽く動けるインハウスデザイナーの専売特許といえます。
デザインのディレクション
ホームページなど社内のマーケティングツールを定期的にチェックし、それらが機能しているかディレクションするのはインハウスデザイナーの役割の一つです。
また、デザイン制作を業務内容としている会社を例外として、全体の社員数と比較してインハウスデザイナーの比率は極めて少なくなります。そのため、大きなプロジェクトが動く際はインハウスデザイナーだけでなく外部のデザイナーを動員することもあり、外部のデザイナーから上がってきたデザインのディレクションを行い、外部のデザイナーと協力しデザインを作り上げていくのは、企業のブランドアイデンティティやサービスを熟知したインハウスデザイナーが適任だと言えるでしょう。このディレクションの程度は企業にもよりますが、上司の理解やデザイナー自身のプレゼンスが低い場合は、専門外の上司にディレクションを任せる場合もあります。企業としてデザイン業務を代行するだけの人材を欲しているのか、デザイナーとしてディレクションまで行い、企業のイメージを変えていくような人材を欲しているのかによって、インハウスデザイナーにやってほしいことを共有できるようにしましょう。
デザイナーの知見を活かした問題解決
デザイナーは単純に考えをデザインという形に落とすことはもちろん、その過程で情報の整理やユーザーの心理を読み取ることに比較的蓄積のある職種です。インハウスデザイナーに活躍してもらい企業のさらなる成長を目指すのであれば、企業のイメージアップなどを目標にデザイナーに役目を与えてもいいかもしれません。例えば自社でアプリを開発している企業を例に挙げると、ユーザーが実際にホームページやアプリを使う際、何が障害になるのか、どこが使いづらいのかを分析してもらった上で、どうすれば問題が解消できるかを考えてもらってもいいかもしれません。もちろん具体的に「資料を作って欲しい」という業務より「企業にとっての課題を考え解決策を提案し、デザインで解決する」といった業務の方が優れたデザインスキルや企業への理解、コミュニケーション能力が求められるため、漠然と会社が良くなるだろうからといった理由でデザイナーを採用するのではなく、ある程度デザイナーに「何をしてもらいたいか」を明確化しデザイナーを採用するようにしましょう。
デザイナーがインハウスで働く上でのポイント
インハウスデザイナーが多くのデザイナーと大きく異なる点は、その環境です。社内にはデザイナー以外の職種が多く、場合によっては上司がデザイナーではないというケースも少なくありません。ここではその点を踏まえて、インハウスデザイナーとして働くポイントや、注意点をご紹介します。
働く環境を吟味する
インハウスデザイナーは上司がデザイナーではない場合がある、といった話をしましたが、例えばデザイナーを採用し始めた直後、あなたが企業で最初のインハウスデザイナーだった場合、上司はもちろん別職種になります。そして、あなたのデザインチェック、決裁を取るべき相手も必然的にその上司になるため、上司や企業のリテラシー・価値観があなたの成果物の評価に直結します。例えば、上司や企業が昨今のデザインに全く関心がなく、前時代的考えを持っている場合はどうでしょうか。「目立たせたいからここは赤に変えて欲しい」「この文字はもっと読みやすく太字にしてほしい」など、すべての要素を目立たせるような指示をされるのが想像できないでしょうか。これからデザイナーを採用しはじめる企業で働くことは様々な挑戦ができる場として期待感は持てますが、その企業がどんな価値観を持っていて、どんな人が働いているのかを知っていないと、「こんなデザインをしたいわけではなかった」というデザインを作り続けるような悪循環に陥ってしまう可能性も考えられます。インハウスデザイナーとして企業で働くということは、その企業の専属デザイナーとして働くということです。その企業が安定しているか、デザイナーが快適に働くことができるかという事務的なことだけではなく、その企業が好きか、働いている人とスムーズなコミュニケーションをとれそうか、その企業をもっと良くしたいと思えるか、など情緒的な部分まで自分に問いかけることが重要かもしれません。
自身のプレゼンスを高める努力をする
例えばどれだけデザインに理解のある企業にインハウスデザイナーとして採用されても、採用されたばかりのデザイナーが「自社のホームページのWEBデザインが悪いから、丸ごと作り替えましょう!」と言っても、その要望が受け入れられる可能性は低いと考えられます。しかし、これが企業の細かい資料作りからパンフレット制作までを担当し、数々の問題提起を行なってきたデザイナーの発言であれば話は変わるかもしれません。インハウスデザイナーの仕事の内容は企業や上司のスタンスによる影響力も少なくありませんが、その本質はデザイナーが自身のプレゼンス(存在感・立場)を高める努力ができるかにも大きく依存します。もし上司に「この企業を良くするため、デザイナーとしてなんでも言ってくれ!」と言われても、社員としての実績がなければ大きな案件の決裁を取るのも難しく、周囲の理解も得られません。存在感を高める努力として、別職種の同僚たちとコミュニケーションを取り、企業にどういう課題があるのかを知ること、それに対して「デザイナー」がどのように貢献できるのかを知ってもらうこと、営業が作るデザインとデザイナーのデザインは何が違うのかを知ってもらうこと、この積み重ねでデザイナーの存在感を高めることが、より影響力のあるインハウスデザイナーになるために必要不可欠な努力だと言えます。
ボトルネックを見極める
ビジネスやマーケティング上、企業のボトルネックを見極めておくこともデザイナーには重要です。ホームページにユーザーとのコミュニケーションにおける障害があるということが分かっているのならのならホームページを見直すべきですし、訪問営業の成果が芳しくないようなら、提案資料などのデザインを見直すこともできるからです。ボトルネックを見極めるためには企業のことを知っておくだけでなく、プレゼンスの話でもあったような、デザイナー以外とのコミュニケーションも欠かせません。また、ボトルネックを正しく解析するために、各種マーケティングルートの解析・診断や、営業成績を入手できるルートを社内に構築する必要もあります。頼まれた仕事を行うだけでなく、自ら企業にとってプラスとなるような改新を提案することによってプレゼンスの向上と相互作用で企業に利益をもたらすことができるため、問題意識を持つことができることがインハウスデザイナーとしては強みになるかもしれません。
今回のまとめ
デザインに必要性を感じる企業の増加によりインハウスデザイナー採用の需要が高まり、一方デザイナーも安定や長時間労働からの脱却を求めてメーカーなど制作会社以外の企業へ就職する割合が増えています。だからこそ今、インハウスデザイナーが面白そう、と思われる風潮もありますが、SNSサービスやポータルサイトを運営する大手IT企業や、業界でいち早くデザイン部を作り上げたメガバンクなどを除けば、現状、インハウスデザイナーは閉鎖的な環境で事務的な仕事をしている職業というくくりから抜け出せていません。プロジェクトに制作会社が参画する場合は自社と制作会社の板挟みになることもあり、やりがいや目標を自分で見出し、主体性を持って行動できる人材ではない限り、延々と同じ資料や発行物をデザイナーではない上司のディレクションで作り続けることになります。採用する側、される側に問わずインハウスデザイナーという選択肢を考慮に入れる際は、どんなことをしたいか、どんなことをやってほしいのか明確し、その特性を考え判断するようにしましょう。