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Webマーケティングにおけるデザイン=課題解決という考え方
2023
.06.26
近年では企業のデザインへの関心も高まり、制作会社や広告代理店へのパートナーシップだけでなく、内部にデザイナーを雇用しデザイン部門を設置する企業も多くなってきました。そもそも、このビジネスにおいてデザインを重視する傾向はiMacやiPhoneという象徴的な製品を世に売り出し成功したApple社の影響が大きく、Apple社の台頭とともに高まったデザインへの関心は、デザインは「イメージ戦略や革新的な発想で問題を解決し、Appleのように企業を成功に導いてくれるもの」という誤解を生んでしまいました。確かに全国にシェアを広げる大手企業やそこに陳列される有名ブランドの商品ならば、パッケージや広告、プロダクトデザインなどデザインの領分である程度印象を操作することも可能です。しかし、これが日本の企業の約99%を占める中小企業の場合はどうでしょうか。製品のデザインが良ければ店頭で見たことがないような企業の製品をホームページで購入できるでしょうか。パンフレットのデザインが良ければ聞いたこともないような学校に入学しようと思えるでしょうか。ホームページのデザインが良ければ名前も聞いたことがないような企業とお付き合いをしたいと思えるでしょうか。
日本の中小企業マーケティングにおいて、デザインがビジネスの成功を決定づけるケースは稀です。ここではなぜ日本の中小企業ではデザインで根本的な問題が解決できないのかを解説するとともに、中小企業のWEBマーケティングにおけるデザインの役割、考え方をご説明します。
【目次】
1. デザイナーの立ち位置と役割
2.中小企業のWEBマーケティングにおけるデザインの役割
a.ベネフィットとその過程を分かりやすく伝える
b.他社との差別化を目的としたブランディング
c.信頼感を演出する自己紹介
3.今回のまとめ
デザイナーの立ち位置と役割
冒頭で述べたApple社の本社があるアメリカでは、デザイナーという職種の地位が日本に比べて高いことに加え、組織体制の違いから決裁権を持つステークホルダーとコミュニケーションが取りやすく、デザイナーがベースから考え意見を通しやすい環境という土壌が出来上がっています。反対に言えば、そこまでデザイナーが考えなければいけないという話にもなります。さらに、スティーブ・ジョブスがトップだった時代のAppleではユーザーテストを行わなかったというのも有名な話で、デザイナーたちが「製品がどうあるべきか」という自身の見解をほとんどそのままプロダクトに反映したという神話のような話もあります。つまり、あらゆる点で日本の大多数のデザイナーとは立場も役割も異なるということを留意しておきましょう。
次点に挙げる例として、日本でも有名なデザイナーという存在が一定数存在します。このデザイナーたちは外部制作会社、インハウス勤務を問わず立ち位置と役割は米国のデザイナーと似た側面があります。「デザインを通したコンサルティングの仕事を一括で請負い、ベースから関与する」という点と、「デザイナー自身も経営者、著名人の場合が多く、ステークホルダーとの関係がある」という点が合致しています。この2点は手掛けた仕事やそれによる受賞歴、「この人になら任せられる・任せたい」という信頼で担保されているため、実力だけでなくキャリア形成や高いコミュニケーションスキルが求められます。
最後に日本のほとんどのデザイナーは、企業からの受注、インハウスの場合は指示でデザインを制作します。必然的に決裁権のあるステークホルダーは上位の立場のため、デザイナーがマーケティングの方向性を決めることは非常に難しくなります。ステークホルダーにはステークホルダーのマーケティングにおけるビジョンがあり、顧客の問題に対する解決策としての事業があります。この事業をユーザーのメリットとして訴求するのが利益(ベネフィット)であり、この「利益を顧客にわかりやすく伝えること」がその他大勢のデザイナーが掲げるデザインの方向性とも言えます。
つまり、ステークホルダーの考える顧客の問題に対する解決策、引いてはどう利益を出すかというマーケティング上の解決策と、デザインの目的は必ずしも一致しないということです。
中小企業のWEBマーケティングにおけるデザインの役割
上記のステークホルダーの考える問題解決策とデザインの役割の乖離に加え、中小企業におけるWEBマーケティングは知名度の高い大企業とは全く性質が異なります。例えば大手企業が行うような派手なプロモーションや徹底したブランディングを中小企業が行ったとしても、誰も見ていないお立ち台でポージングをしているかの如く、空回りしたマーケティングになってしまいます。中小企業のWEBマーケティングでは、いかに地道に努力を積み上げ、ユーザーに自社を受け入れてもらっていくかが重要となります。ここではその地盤となるデザインの役割、ポイントについてご説明します。
ベネフィットとその過程を分かりやすく伝える
ユーザーにとってのメリットや利益を訴求するのはマーケティング手法として鉄板ですが、認知度の低い中小企業のマーケティングとしてそれだけでは不親切です。自分たちの手がけるサービスや製品でできることだけでなく、どうしてそれができるのか(理由)、どういったステップで導入ができるのか(導入の流れ)といったところまで丁寧にホームページ上で説明することでホームページの内容をユーザーも自分事として受け取りやすく、ベネフィットをより効果的に訴求することができます。
他社との差別化を目的としたブランディング
数あるホームページの目的として挙げられるブランディングですが、名前も知らない企業が徹底したブランディングを守り通そうと、既存の印象からのイメージチェンジを図ろうとも初見のユーザーは気付きませんし、気づいても「ふーん、そうなんだ」という他人事で終わってしまいます。そもそもブランディングとはユーザーがブランドに抱くイメージと企業が発信するイメージを一致させる施策であり、ユーザーがブランドをしっかりと認知していなければ全く意味がありません。つまりユーザーにまずは認知してもらい、覚えてもらうことがマーケティング上では重要になります。そのためには競合他社としっかりと区別してもらえるようなブランディングを行うことが重要です。「あなたの会社も競合他社もみんな青がイメージカラーだから、あなたの会社はイメージカラーを赤に変えてください」とまでは言いませんが、競合他社との価格帯の違いや品質の違いでデザインを周りと少し変えてみるだけでもユーザーはブランドのイメージを合致させやすくなります。内容としても「他社との違い」や「選ばれる理由」を訴求することで会社の差別化がしやすくなり、企業を認知してもらえる可能性も高くなります。
信頼感を演出する自己紹介
一番基本的なことですが、初見で閲覧するユーザーが「怪しくない」と思えるようなホームページを制作することがマーケティングでは非常に重要です。内容ももちろんですが、人と同じで最初に目にするのは性格ではなく見た目です。デザインとして整合性があり、業界業種のイメージに合致しているデザイントーンを目指しましょう。また、画面幅によってデザインが崩れているとバグが起きているホームページと誤認されることもあるため、レスポンシブWEBデザインへの対応は最優先としましょう。もちろん内容、プロフィールも明記しておくことも重要です。ちゃんとした住所がある企業、店舗のあるお店ということを明確にするだけでも信用度は大きく変わります。「会社概要」や「店舗紹介」、必要に応じて会社の「沿革」や「事業にかける想い」を記載することで情報を補強するようにしましょう。
今回のまとめ
デザインを企業の方針に関わるブランディングに関わる高次元なものと考えすぎると、今回のような中小企業のマーケティングに合わせたデザインは少し邪推なものと捉えられるかもしれません。しかし、問題解決を名目にしたコンセプトデザインも実際は「架空の物事を想定した実験的施策」に他なりません。そしてその目的も言ってしまえば「企業の利益を上げる」ことです。誰がデザインした、どういった意図でデザインしたというのも意味がないわけではありませんが、マーケティングの規模やデザインの立ち位置を正しく把握し、企業やデザイナーの独りよがりにならないようなデザインを目指しましょう。